この妖怪がたくさんいるお屋敷で、暮らすことになった彼。なんとか温かく迎えられたわけなのだが、、、
「久々の人間だからみんなうれしいんだ。ささ、お前さんの部屋を案内する。ついてきんしゃい。ほら、どいたどいた。」
通路をふさぐ妖怪を軽く退け、たくさんの妖怪から穴が開きそうになるほど視線をもらいながら、彼は、ぬらりひょんの少し後ろを歩いた。辺りを見渡すと、外から見た汚さはなく、綺麗で、どうなっているのか電気も通っている。そこを不思議がっていると、
そういえばあんちゃん、名前はなんて言うんじゃ?
そう聞かれた。
「ヨウタ」と彼は名乗った。「なんだ、いい名前もらってんじゃないか」と言われ、久々に褒められたことに少し笑みがこぼれた。
「近頃は、きらきらネームだとか何とか言って、将来苦労するんじゃないかとひやひやするような子もおる。立派な親御さんに育てられたのに、もったいない。なおさらなんで死ぬんだか。」 「なんかスイマセン。。。」
妖怪だという点を除けば、言動もしぐさも普通のおじいさんと何ら変わりない。近所の暇なおじいちゃんと、会話しているような感じがした。そう話しながらも、自分たちの横を、二頭身くらいの小さな妖怪が走り抜けていく。そんな光景に驚きながら進んでいると、
「まあいい。ここに来たということは、もう一度人生をやり直すわけなのだから、ゆっくり学んでいくといい。」
「学ぶ?そういえば一体何をしに俺はここに連れてこられたんですか?」そうすると、ぬらりひょんは呆れた顔で
はぁ~あのじいさんはなんも説明せんのか、めんどくさがりもいいとこじゃ。
お前もじいさんじゃないのか?って言いかけたけど、黙って聞き続けた。
「ここは、簡単に言えば更生施設みたいなもんじゃ。お前さんみたいなのがたまに送られてきて、もう一度しっかりとした気持ちで生を全うできるようになるために過ごすとこや。細かいことはまた今度。」
「更生施設?刑務所的なこと?」「そんなに酷いとこじゃない、とだけ言っとくわ。ほれここが、お前さんの部屋じゃ。」
通された先には、12畳ほどの和室だった。「案外広いんすね」「ええじゃろ」ニヤリと笑みを浮かべながらそう言われた。
「ここから、お前さんの文字通り第二の人生が始めまるんじゃ。共に頑張っていこう。」「あ、はい。了解っす。。。」
まあ、一つ話をせんか?
「ええ、いいですけど。」畳に座って、ぬらりひょんは話し出した。
「つらい思いをさせることを承知で聞くが、お前さんはなんで死んだんだ。」「なんで、ですか、、、。何となく漠然と嫌になって、つまんなくなって、これから何したいかって考えても何も出なかったし。」「ほう。それで死んだと。」
「んまぁ、生きてる意味なんて無いように思えてきて、将来の夢なんて昔は言ってたけど、現実見たらなれっこないし。」「ちなみに何になりたかったんじゃ?」「小さい頃はサッカー選手とか、宇宙飛行士とか、そこから音楽にかかわる仕事に就きたいとか、社長になりたいとか、科学者になりたいとか、心理学勉強して人を助けたいとか、ん~」
上を見上げながら考えるヨウタ。
「もういいぞ!それだけ言えるなら十分だ。」「えっそうなの!?」「やりたい事たくさん持ってるじゃないか!それでいい!それでこそ若者だ!」肩をバンバン叩かれながら、笑顔を向けられてなぜだか自分も笑顔になった。
「お前の努力次第で、これからいくらでも叶えられるぞ!」「え、マジで!?」「うぬ。ただし、我々ができるのは、助言をするくらいだ。お前の悩みを解決することは決してない。」「じゃあどうすれば、、、」「我々に頼って決めても、結局それは本当の自分の決定ではない。そうすれば、心のどこかに必ず後悔を生む。どうしたいのか、何が重要か、焦らずゆっくり考えろ。」
「今の段階でお前にできる助言は、そうさなぁ~、、、
自分の好きなもの、興味があるものを片っ端から試してみろ。そして、そこに情熱が見いだせたなら全力で注ぎ込め!
ってとこかのぅ」「情熱を注ぎ込むかぁ」
ヨウタが、考えていると
じゃ、わし戻るから、今日はゆっくり休めよ。また明日な
「あ、ハイ。おやすみなさい。」
そうするとふすまを閉めて、足音は遠ざかっていった。
「はぁ、これからどうすりゃいいんだか。あれ、つーかこの部屋、何もないんだけど。布団は?机は?どうすりゃいいのさ!チキショーあのじいさん覚えてやがれ。」
そう言い放つと仕方なく、畳に横になった。不安と期待を織り交ぜながら。
こうして夜はふけていった。
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