百鬼夜行にようこそ もう一度生きるための更生施設

「こんな人生に何の意味があるんだろうか」
そう嘆く彼。

彼は人生に何の面白みも見いだせなかった。周りに合わせるのが得意で、人の顔をいつも見ていた。そんなことをしていたら、周りはどんどん成長していって、いつの間にか彼は自分だけが取り残された感覚に陥った。

気づいた時には、頑張れない自分が出来上がってしまっていた。周りの目が怖くなり、みじめな自分が心底嫌になった彼は、とうとう死ぬことを決意した。
なるべく目立たないように、森の中で練炭(れんたん)自殺にすることにした。睡眠薬を飲み、眠って以来、目を覚ますことはなかった。

そうして、彼は死んだ。「何もかもが終わらせられた」「楽になった」と思った。

次目を開けた時には、目の前に大きな一面緑色の川が広がっていた。まるでメロンソーダのような色だった。何となく、「三途の川」というものにたどり着いたのだと推測した。ここを渡れば本当に死ぬことになるのだと。
辺りを見渡すと、小さな船着き場のような場所があった。そこで、しばらく待っていると、向こうから何者かが舟をこいでこちらに向かってくるのがわかった。

「お~い!あんたも死んじまった人間か~?」遠くに見える何者かがそう言った。彼はそうだと言った。そうすると船はスピードを上げた。そして近づいてきて初めて分かった。舟をこいでいるのは、小柄な鬼であった。鬼の存在に驚いていると、「兄ちゃん早く乗れや!」いつの間にか船着き場に船が到着していた。驚きながらも乗船すると「六銭くれや!」と鬼が言ってきた。

どこを探してもそんなもの無かったので、正直に無いと答えた。すると鬼に「兄ちゃん若いし、さては自殺か?最近多くて困るんだよなぁ」頭を掻きながらそう言われた。どうやら「自殺する人間はたくさんいるらしい」謎の安心感を持ちながら、

「スミマセン」そう答えて船に乗った。水平線で見えなかったが、向こう岸はすぐそこだった。見えた先には、立派にそびえたつ、禍々(まがまが)しいお寺がそこにはあった。

船を降り小鬼にその中に通された。

何してんの君

「えっ」彼は驚きを隠せずにいた。急に現れた大きな鬼。そして、結構フランクな問いかけ。
「あの、あなたは一体何者なんですか?」
「結構有名だと思ってたんだけどな~。知らない?閻魔大王っていうんだけど。」

内心すごい知ってた。しかし、現実味の無さに言葉に詰まった。「そうかぁ~俺もまだまだだなぁ~」なんて言っている閻魔様は急に顔つきを変えた。まるでギャグ漫画みたいだ。

でも、仕事増やさないでほしいんだよねホント。こっちも忙しいのよ。それに君まだ死ぬような歳じゃないでしょ?ってことでもう一度人生をやってきてください。

頭はまるでついてこない。「もう一度人生をやってきてください」?ん?「俺、今死んで来たんだけど。何ならもう人生やりたくなくてここ来たんだけど、、、」そう彼は閻魔様に言った。

現世に帰っても、同じようなっことでまた戻ってこられても困るから、しばらくぬらり君のところで預かってもらいなさい。

そう言われた彼は、反論する暇も与えられず、小鬼に連れられ、もう一度メロンソーダのような川を渡った。しばらく歩くと光に包まれた。その後死んだはずの森の中で目を覚ました。
目の前に知らないおじいちゃんがいた。

よう兄ちゃん。ついてこいや。

「あのどなたでしょうか?」少し後ろを歩きながら聞いた。 「あれ?閻魔様っていうでっかい鬼から聞いてないか?ぬらりひょんっていうんじゃけど、、、」
「ぬらり君って妖怪のぬらりひょんのコト⁉妖怪にどこ連れていかれるわけよ!」

しばらく歩くと、大きな日本家屋が見えた。到着するなり、ぬらりひょんはこう言い放った。

今日からここがお前の家だ。存分に使ってくれてええぞ!

そう言って扉を開けると、そこには、たくさんの妖怪がいた。知ってる妖怪から知らない妖怪まで様々。
ようこそ!百鬼夜行へ!」と非常に歓迎モードのようだ。
彼が青ざめていると、背中を押され扉を閉められた。

そうして彼は、今日からここの預かりになった。

彼の二度目の人生を生きるための日々が始まった。

 

 

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